ホームレスから市長へ!人生、一発逆転ホームランのスカっとするシナリオです。
これを読んで、日頃のうっぷんを晴らしましょう!
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ホームレスから市長へ!人生、一発逆転ホームランのスカっとするシナリオです。
これを読んで、日頃のうっぷんを晴らしましょう!
成央市、雨の高架下で、ホームレスの須和吟平と市議会議員の物部利明が出会った。それは、格差を越えた心の結びつきを生んだ。
しかし、市はまちの美化のため、ホームレス強制排除の方向へと動き出す。単独で異議を唱える物部であったが、現市長藤浪の権力の前にはまるで刃が立たず。居場所もつながりも失った須和は、譲り受けた名刺を頼りに、物部に助けを求めた。
そして、須和の哀れな出自を耳にした物部とその妻、佐代里。物部は須和を懇談会に招き、公務員たちの前で話をさせた。笑われ、馬鹿にされはしたが、ただ一人、若手職員の心には響いたようであった。物部は考える。「市民に対して正しく、優しい行いをする」ために――
「須和くん、次期市長選に出てみないか?」突然の誘いに、たじろぐ須和。しかし、物部の「バカみてぇ」な熱意に押され、須和は自らの意志で出馬を決意するのであった。
そして、須和、物部と佐代里の三人は選挙の事前準備(政治活動)に取りかかる。さらに心強い味方となる幹部、労働者の吉平をリクルートして、後援会の発会、辻立ち演説やミニ集会など、次々と一生懸命にこなしてゆく須和。一から自治法や政治についての勉強も頑張った。しかし――
対立筆頭候補の前市長、藤波の魔の手が須和に忍び寄る。それは記者、悠美を使ってのハニートラップだった。
無実の罪を負わされる須和。そして、約束を誓い合った物部との決裂。
ゼロから立ち上がり、ようやく手に掴めそうな幸せ――それを根底から覆され、須和は行き場もなく電話ボックスへ。いのちの電話とのやり取りの中で、彼はまだ命あること、「まちを愛している」ことに気づかされる。
須和は再起し、ホームレスたちと共に無謀な選挙に挑む。最後に、市民へ、何より物部への感謝を表明するために――。
○日本いのちの電話連盟動画紹介ビデオ
冒頭部――
N「あなたは気付いていますか?」
雑踏――
N「一見豊かに見える社会で、孤立し、孤独な人がいることを。そして、たくさんの人が死に直面するような心の危機に遭遇していることを――」
○高架を走り抜ける電車
雨が降っている。
○高架下
電車の過ぎ去る音――
雨がコンクリートを激しく打ちつけている。
ボロを纏った須和吟平(29)、落書きのある灰色の壁を背にしてうずくまっている。もう何日もずっとそこにそうしていたように――
そこへ、高級ブランドのスーツをぐしょ濡れにさせ、雨宿りに走って来る、物部利明(47)。
物部「(ため息)これだから予報は……」
須和「……」
物部「(須和に気づき)しばらく借りるよ、ここ」
須和「(物部を見る)……いや」
物部「ん?」
須和「違うんで」
物部「何が?」
須和「別に、ここ、俺の場所じゃないんで」
物部「ああ、なるほど、そういうことか」
須和「……」
物部「……(雨雲の空を見上げて)なるほど」
と、急に失笑する。
須和「え?」
物部「いや、すまない。君はおかしくない。確かにそうだ、ここは君の場所じゃあない」
須和「はあ」
物部「だが……なぜわざわざ、君はそう言ったのか、それが非常に不思議でね、つい」
須和「……」
物部「すまなかった」
須和「いえ……」
人々が雨から逃げるように駆けてゆく。
須和「あの……」
物部「ん?」
須和「よかったら、これ……」
後ろからボロのビニール傘を取り出す。
物部「え……」
須和「使ってください」
物部「……いや、それは」
須和「いいんです、どうせ拾い物ですから」
物部「しかし、それでは君は……」
須和「どうせ暇ですから」
と、笑ってみせる。
物部「君……名前は?」
須和「え?」
物部「私は物部利明。ここ成央市で市議会議員を務めている」
須和「ぎいん、さん……でしたか。そりゃ、どうも(傘を引っ込める)」
物部「何も恐縮することはない。顔を上げてくれ」
須和「いや、俺なんか……コレっすから」
物部「……君は、私に向かってわざわざ正しいことを言ってくれた。そして、優しい行為を示してくれた」
姿勢を低くし、須和と視線を合わせる。
物部「私も、本当は、もっと正しいことが言いたい。そして、市民に対して優しい行いがしたい」
須和「(物部の真剣な眼差しを見つめ)……」
物部「傘、貸してくれないか? これから、街頭演説に行こうと思う」
須和「あ、はい」
と、ボロ傘を渡す。
物部「代わりに、これを」
と、名刺を差し出す。
須和「え、これ……?」
物部「借りを返すときのためだ、受け取ってくれ」
須和「じゃ、まぁ一応……(受け取る)」
物部「(笑んで)それじゃ」
と、傘を差し、雨の中へ出る。
物部「?(傘の破損からの雨漏りに気づく)」
須和「あ、ボロくてすんません」
物部「いや、けっこう」
と微笑み、去って行く。
須和、ふいに歯を食いしばり、立ち上がる。
須和「あの!」
物部「(振り向く)ん?」
須和「俺、須和吟平っす! 名前!」
物部「……ああ」
須和「あの、俺も! 本当はもっと正しいことやりたいっす! 見返してやりてぇっす!」
物部「……」
須和「でも! 俺じゃできねぇんで、どうか、議員さん、よろしくお願いしやっす」
頭をぎこちなく下げる。
物部「ああ……ああ、分かった」
もう一度須和に近づき、手を差し出す。
須和、汚れた手を汚れた服でこすって、物部と握手。
物部「約束する」
汚れた笑顔を見せる、須和――
○メインタイトル『難民の選挙』
○成央市議会・本会議場
議長席で議長が議会を進行していく。
議長「次は日程第三議案第4号、公園及び河川敷における野宿者等によるテントや小屋、廃材の全撤去を求める案件を議題とします。本件は都市環境委員長からお手元に配布しました文書の通り、受諾、直ちに決行との申し出にご異議ありませんか?」
議員たちの声「異議なし」
議長「ご異議なしと認め――」
物部の声「異議あり!」
議長が怪訝に顔を上げる。
議員席で物部が場違い的に立っている。
物部「やはり本市は他市と比べ、ホームレスの数も多く、強制撤去の前にまずやるべきことが――」
議員たちが笑い声を上げる。
議員「議論を尽くした結果決まったこと」
議員「今更蒸し返すのは野暮だよ君」
議員「しかもこの場で」
物部「しかし彼らも一市民、先行き不透明のまま、安易に排除すべきではありません」
理事者席の市長、藤浪大介(66)が腕を組んだまま、
藤浪「議長、会議の進行を願います」
物部「お待ちください市長!」
藤浪「ならば、物部利明くん、多額の税金を納める方々のたっての要望を、君は反故にするというのかね?」
物部「それは……」
藤浪「まぁ落ち着きたまえ。もうすぐ閉会だ。私の市長としての任期もまもなく終わる。立つ鳥跡を濁したくはないのだよ」
議員たちが笑い声を上げる。
議員「市長、是非もう一期」
藤浪「ははは、その話はまた後でじっくりと。では議長、お返しします」
議長が再び、文書を読み始める。
議長「では、ご異議なしと認めます。従ってこのように決定しました。以上で本定例会の会議に付されました事件はすべて終了しました。これで本定例会を閉会します」
一同に立ち去って行く議員たち。
物部はその場で立ち尽くし……
机を握り拳で叩く。
○河川敷
ダンボールやビニールシート等で作られた住居群。
寒さに身震いしながら、寄り集まって携帯コンロに載せた鍋に具材を入れている中高年のホームレスたち(田丸、杉岡、中前、安野、戸川)。
そこへ油で汚れたつなぎ姿の吉平克也(36)が手土産を持ってやって来る。その後ろから、須和が俯いてついてくる。
田丸「おー、よっちゃん」
一同、吉平を歓迎する。
吉平「ほれ、肉」
ホームレス一同「おお、肉!」
吉平「ハトの」
ホームレス一同「ハトかよ!」
吉平「(笑)嘘だよ、ちゃーんと、ほれ」
と、業務用の鶏ムネ肉を取り出してみせる。
杉岡「いいねぇ、贅沢だねぇ」
中前「よっちゃん様様だ、へへ」
吉平「(肉を預け)そんじゃオイラはこれで」
安野「え、一緒に食べてけって」
吉平「や、まだ仕事があんだって」
戸川「そうか、そりゃおめぇ……」
吉平「(礼なんて)いいから。代わりにコイツ、食わせてやってくれや、な」
と、須和を前に押し出す。
須和、不器用に頭を下げる。
中前「まぁた、犬猫じゃあるめぇし」
須和「……」
安野「でもま、よっちゃんの頼みだ。聞かない訳にゃいかねぇだろ」
吉平「(笑み)さんきゅな」
戸川「(礼なんて)いいよ。(須和に)ほれ、おめぇさん、名は?」
須和「(ぼそっと)須和吟平です」
田丸「ああ? 聞こえねぇよ」
吉平「スワギンペイだってよ、ギンペイ」
杉岡「(笑って)なんでぇ、トリみてぇな名前しやがって」
須和「……」
吉平「(苦笑)慣れてねぇんだよな、こーゆうの」
田丸「(笑って)しょーがねぇ、おいギン。おめぇも帰る家がねぇんだろ?」
須和「あ、はい」
杉岡「まだ若ぇのに……てやんでぇ、おめぇも今日からおれたちの仲間に入れてやる」
須和「仲間……」
安野「おぅ。これからは腹が減ったら、いつでも来いよ。不味い飯食わせてやっから」
中前「バカ言え。ガキ養う余裕どこにあんで」
戸川「そりゃおめぇよっちゃんが、な?」
吉平「(苦笑)ま、いつでもとは言わねぇが、たまには、な、頼むよ……(腕時計見て)おっといけねぇ、行くわ」
田丸「おぅ、またな」
と、吉平が去りかけると、市の職員たちが押し寄せ、横に整列する。
吉平「え?」
市職員「(ハンドマイクで)行政代執行法に基づいて撤去します」
ホームレス一同、大慌てで各々の小屋へ散り、両手を広げ立ちはだかったり、中で岩のように腰据えたり。
市職員、「かかれ」の合図で一斉に小屋へ向かう。
吉平「ちょ、おいっ!」
○成央市役所本庁舎・市長室
「市長 藤浪大介」プレートを前に、腕を組んで座っている藤浪。
立ち向かっている物部。
物部「藤浪市長!」
藤浪「物部くん、君もしつこい男だ」
物部「私は、一市議会議員として!」
藤浪「何か、個人的思い入れでもあるんじゃないのかね? ホームレスに対して」
物部「それは……特に(ありません)」
藤浪「そもそもだよ、公共の市民の場所を不法に占拠し、まちの景観を損ねているのは彼らなんだ」
○河川敷
数名の市職員に小屋から引っ張り出される田丸。必死で抵抗している。
剥がされるビニールシート。それを見て市職員に飛びかかる中前。
中前、他の市職員たちに袋叩きに――
吉平「やめろ!」
と、叫び加勢する。
ただ突っ立って見ていた須和――
逃げ出す。
○成央市役所本庁舎・市長室
物部、険しい顔で立っている。
藤浪、ゆっくりと立ち上がりながら、
藤浪「義務を果たさないばかりか法まで犯す犯罪者たちのせいで、河川敷でのレジャーや公園を使ったイベントが安心かつ安全にできない、そんな成央市に私はしたくないのだよ」
物部の後ろに回り、肩に手を置く。
藤浪「わかるね?」
物部「(ごくりと唾を飲み)それは、次期選挙へ向けた人気取りでしょうか、それとも」
藤浪「なんだね、言ってみなさい」
物部「外郭団体からカネを握らされた、とか」
藤浪「(失笑)馬鹿も休み休み言いたまえ。君はまだ、この世界に入って日が浅いようだ」
出口へ向かう。
物部「(振向き)市長それはどういう――?」
藤浪「良きに計らえ」
と、豪快に笑いながら去って行く。
物部、その背を睨みつける。
○成央駅・前(夕)
須和が歩いて来る。
憔悴しているよう――そして、電話ボックスへ入る。
その中で、こらえ切れず泣く、須和。
泣きながら、握りしめていた百円玉を投入。さらにポケットの中から一枚の名刺を取り出して、ダイヤルボタンを押す――と、
佐代里(物部の妻)の声「はい、物部でございます。どちら様でしょうか?」
須和「あ、あ、あの……」
佐代里の声「(怪訝に)はい、何か…?」
須和「あ……いえ、何でも!」
ガチャン、と切ってしまう。
「100円は、おつりがでません」の表示。
須和「くっそぉ……」
もう一銭もなく――
須和「何だよもう、ちくしょう……」
透明な壁に頭を打ちつける。
○物部家・居間(夕)
物部佐代里(46)が不審そうに受話器を置く。
食卓で食事中の物部、佐代里を見る。
物部「どうしたんだ? 誰から?」
佐代里「さあ? 公衆電話って表示されてたけど」
物部「公衆電話?」
佐代里「ええ。あの、だけ言って切れちゃった。イタズラかしら」
物部「(ピンと来て)若い男の声か?」
佐代里「ええ、たぶん」
物部、立ち上がり、上着に袖を通す。
佐代里「どうしたの、突然?」
物部「すまん、ちょっと出かけてくる」
佐代里「明日にできない?」
物部「今を逃せば、どうなるか分からない。彼には特定の居場所がないんだ」
佐代里「わかった。急いで行ってあげて」
物部「ああ」
と、出かけて、
佐代里「ちょっと待って」
物部「?」
佐代里「これ――」
キッチン棚から菓子パンを数個取り出して、
佐代里「お腹、空いてるだろうから」
物部「恩に着るよ」
それらを受け取り、駆け出してゆく。
○成央駅・前(夜)
物部が息を切らして、駆けてくる。
物部「公衆電話なんて、もうここにしか……どこだ、どこに行った須和くん、須和吟平くん!」
周囲を見渡す。
と、電話ボックスの中でうずくまる影が見える。駆け寄る物部。
扉を開けると、中から血色悪く、気を失った須和が倒れ込んでくる。
物部「! 須和くん!」
揺らすが、反応なし。
物部、慌てて公衆電話に飛びつき、119を押す。
物部「……成央駅前北口広場で一人の青年が意識不明で倒れています。おそらく栄養失調か何かだと……はい、至急お願いします」
ガチャン、と受話器が置かれる。
○成央市民病院・病室(朝)
ベッドに点滴をつながれて眠っていた須和が、目を覚ます。
隣で付き添ってくれていた物部と佐代里の存在に気づく。
須和「あ……」
物部「ようやくお目覚めみたいだな」
佐代里「心配したのよ」
須和「え、と……」
物部「腹、減ってるか?」
須和「ああ、はい、すごく」
物部「これ、よかったら」
菓子パンをサイドテーブルに置く。
ぎこちなく上半身を起こそうとする須和。佐代里がスイッチを押してベッドの背上げをしてあげる。
須和「あ、どうも……でも、いいんすか?」
物部「ん? いいだろ、パンの一個や二個」
須和「いやそうじゃなくて、俺、保険とか、入ってないし、金も、全然ないし」
佐代里「でも生活保護は受けてたんでしょう」
須和「いや、それがどうも俺、働けない体じゃないらしくて、それにまだ、バイトクビになってからそんな経ってないし」
物部「そんなって、いつからその生活を?」
須和「うーん、日にちとかよくわかんなくなるんすけど……たぶん、三ヶ月くらい」
佐代里「(ため息)両親とか親戚はいらっしゃらないの?」
須和「二、三年前、父はアル中で死にました。母はずっと前にどっか蒸発しちまって……親戚はなんか、誰も関わりたくないみたいで……はは、これ別に不幸自慢とか、そーゆうんじゃないですから」
佐代里「(言葉もない)」
物部「まぁ、とりあえず食べてくれ。カネのことは心配するな、私は君に、借りがある」
須和「(失笑し)あんな、ボロっちい傘なのに……」
菓子パンの袋を開ける。
須和「あんな、ボロ……」
涙をこらえながら、菓子パンにかじりつく。その背を優しく撫でてやる物部。顔をそらし、泣いている佐代里。
○同・前(夕)
物部と須和が出て来る。
物部「本当に平気なのか? たった半日で退院して」
須和「いや、これ以上迷惑かけらんないし、それに一人で病院にいるのがなんか、いたたまれないっていうか」
物部「すまないな、もっと休ませてやれなくて」
須和「いやいや、もう充分です」
物部「私はこれから市役所へ行かなくてはならない。先に帰ってて、と言っても帰る場所がないか」
須和「いや、もうホント……」
物部「そうだ、一緒に来るか?」
須和「へ……?」
物部「市の若手職員との懇談会なんだ。是非君からも話を聞かせてやってほしい」
須和「俺、から?」
物部「ああ、きっと美味い弁当も出るから。だから、頼む!」
須和「俺、エサで釣られませんけど」
物部「あ、これは失礼」
須和「でも、いいすよ。上手く言えないと思うけど、なんかこう、ずっと溜まってたんで、もやもや」
物部「(笑んで)もやもや、か。いいじゃないか、ぶちまけてやれ」
須和「議員、クビになっても知らないですよ」
物部「覚悟の上だ」
須和の顔、ほころぶ。
○成央市役所本庁舎・会議室(夜)
長方形に並んだ机と椅子。
すでに席は市議会議員たちと若手職員たちで埋められている。そこに、
物部が入って来る。縮こまった須和がその背後から現れる。きれいなスーツの中一人、ボロの格好で――
多くの視線が注がれ、須和、ごくりと唾を飲む。
物部「お集まりの皆様、予告もなく独断で部外者を連れてきてしまったこと、まず心よりお詫び申し上げます」
どよめきが起こる。
物部「しかし今回、今後の成央市のまちをどう形づくってゆくべきか、話し合うための重要参考証言として、こちらの須和吟平くんに、ご無理を承知でお越し頂きました」
議員「物部さん、ルール違反もいいかげんにして頂かないと」
物部「成央市の、いえ日本の将来を担う若手職員の前でこそ心に響く声、そして社会の実態があると思います。ルールや慣習に縛られていては、何も変えられません」
議員「成央市は比較的財政状況も安定している。変革の必要があるようには思えんがね」
議員「それにそちらの方、成央市を代表する市民というより、非常に稀なケースかと」
物部「稀ではありません。成央市には現に一万人近くの生活困窮者がおり――」
若手職員「あの」
物部「――ましてさらに……何か?」
若手職員「聞かせてください」
物部「え?」
若手職員「そちら――須和さんでしたっけ、せっかくですから話、聞いてみたいです」
物部「(お辞儀をして、須和に)頼んだよ」
須和、緊張の面持ちで、ホワイトボードの前に出る。
須和「えっと、あの……どうも、ありがとうございます。こんな俺――僕に、話をさせてくださって。あの、僕はこの市で生まれ、29年間ずっとここで生きています。それで、今は無職でホームレス生活を送っています。えっと、それで……」
議員「前置きはいいから、早く本題をしゃべってくれないか」
議員「私らはそれほど暇じゃないんだ」
笑い声が起きて、中には弁当を食べ始める者も。
須和「(物部を見る)」
物部、「大丈夫」というように頷く。
須和「僕は、成央市にはすっごく感謝しているんです。そりゃ口じゃ言えないような嫌なことや泣きたくなるようなことはたくさんあったけど……でも、ここの図書館は広くて本がタダでいっぱい読めるし、公園はきれいで水がタダでたらふく飲めるし、公民館じゃタダのイベントにたくさん参加させてもらって、ホント、みんな親切で……こんなまちをつくってくれた皆さんには、感謝してもしきれません、はい」
皆の視線が須和に集中し始める。
須和「でも、奪わないでください。僕らみたいな弱くてバカで、それでもまじめに優しく生きようと強く踏ん張っている人たちの居場所を、つながりを、役割を――どうか、奪わないでやってください。缶拾いでも雑誌配りでも、何でもします。その仕事を取り上げないでください。どこでも、なるべく迷惑のかけないように過ごします。だから、テントや小屋を無理やり撤去しないでください――お願いします」
物部、感心して拍手をする。と、
議員「(ため息)呆れたよ」
物部の拍手、止まる。
議員「シェルターや自立支援センター、生活保護などの対策はちゃんと取っているはずだが」
議員「この際はっきり言わせてもらうがね、市の言うことに従わず、権利ばかり主張して好き勝手しているのはそちら側なんだよ」
物部「しかし保護の対象にもならず見過ごされている者たちが――」
議員「全部が全部、市が面倒見てやる訳にもいかんだろう! 偽善だよ、君」
物部「……」
須和「……」
議員「さて、それでは懇談会を始めましょう。(須和に)よかったら君も聞いていくか、現実の話でよければ」
須和「(悔しいが)はい」
と、端の席に座る。
物部「(小声で)よくやった」
と、須和に弁当とお茶を渡す。
ひきつった笑顔で須和、受け取る。
○同・廊下(夜)
ぞろぞろと議員や職員たちで去っていく。その後ろから、物部と須和が歩いてくる。互いに言葉なく――と、
そこに、一人の若手職員がふり返って駆け寄る。
若手職員「私、須和さんの話、とても心にしみました。どうか、頑張ってください」
須和「え……」
嬉しくなって物部、須和の背中を叩く。
物部「届いたじゃないか、ちゃんと」
須和「は……はは……どうも」
○成央東公園(明け方)
ベンチに並んで腰かけている須和と物部。缶コーヒーなどを手にして寒さを忍んでいる。だんだん空が白んでくる。
須和「はは……何の話ですかそれ」
物部「レ・ミゼラブルっていうロマン主義文学だよ。たくさん本を読んでたって割には名作を知らないな君は」
須和「お堅いのは全然」
物部「そりゃ偏見だ」
須和「偏った生き方してきましたから」
物部「でもな、そうやって司教に救われたジャン・ヴァルジャンはやがて名を変え、市長に……」
須和「? どうかしました?」
物部「いや、朝日が、ほら――」
赤々とした光が空に拡がっている。
須和「ああ……何やってんすかねぇ俺たち、こんな時間まで」
物部「ああ、そうだな……(立ち上がって)須和くん」
須和「はい?」
物部「君、市長選に出てみないか?」
須和「は…?」
物部「今から約三ヶ月後、四月二十日に成央市の市長選挙がある。おそらくこのままだと現市長の続投となるだろう。対立候補となるのも、当て馬的な元市議会議員の一人か二人。投票率だって、せいぜい三割程度。誰も関心なんてない、ただの消化試合だ」
須和「え? いや、それでなんで俺?」
物部「君が出れば、きっと何かが変わる! 市民の関心も、必ず高まる!」
須和「そんな、物部さんが出ればいいじゃないですか!」
物部「議員の私が出たところで同じことだ、主義主張の違いだけでは何の目新しさもない。しかし、君なら――」
須和「いやいや、実は俺中卒で何の資格もないし」
物部「市長の条件はたった一つ! 25歳以上の日本国民であること、それだけだ、学歴も資格も何も必要ない。それに君は意外と頭もいいし、弁も立つ」
須和「でも、そんな夢みたいな話――」
物部「夢じゃない、立候補という行動を起こすだけで、君の志次第で、現実になるんだ」
須和「でも実際は、お金とか――」
物部「供託金の百万なら私が出す。選挙が終われば戻って来る金だ、どうってことはない。選挙費用も――気にするな何とかする」
須和「そんな俺、責任持てねぇっすよ」
物部「いいか須和くん! これは、私の夢だ、私の我が儘でもある。責任は私が持つ」
須和「どうしてそこまで…?」
物部「あのとき、言ったろう? 私も本当は、もっと正しいことが、優しい行いがしたい、と。正直、一市議会議員の身分ではそれがなかなか、できそうもない……」
須和「……」
物部「しかし、私は信じているんだ。政治家とは、困っている人の生活をよりよくすることのできる職業だ、と」
須和「(失笑)バカみてぇ」
物部「なっ!」
須和「いや、バカみてぇに、真っ直ぐな人だな、って。きっと両親にすんげぇ愛されて育ったんじゃないすか?」
物部「ま、まあ、な……そんなことより、返事はどうなんだ須和くん!」
須和「……あの、俺、物部さんのコマにはなんないっすよ」
物部「え…?」
須和「万が一、俺が市長になったとしても、物部さんの言う通りにはならないかも、ってことです」
物部「(笑みがこぼれて)この~」
と、頭を両手でパンパン叩く。
須和「ちょ」
払いのけようとすると、頭を思いっきり撫でられる。
須和「(長らく忘れていた感覚で)……」
物部「やるんだ、もっと正しいことを。見返してやろう、君を見下して笑った連中を」
立ち上がって、
須和「はい」
と、頷く。
○写真スタジオ・内
フラッシュが何度もたかれ、新調したスーツでキメた須和が撮られている。
カメラマン「はーい、まだ少し固いですよー、目力くださーい、情熱を感じさせてくださーい」
その後ろで見守る物部。
カメラマン「はーい、まだまだ撮りますよー」
須和の頬が疲れでひきつっている。
○物部家・居間
食卓に選挙へのマスタースケジュール表が広げられる。物部、はじめの方の「写真撮影」にチェックを入れる。
物部「よし、これでチラシに名刺、後援会の入会案内がつくれる」
須和「おお、俺の名刺っすか」
物部「身なりを正したんだ言葉使いも正そう」
須和「あ、はい。僕の名刺ができるのです、ね?」
物部「(笑って)そうだ、名前は(と、表に書く)須和ぎんぺい、と、これでいいか?」
須和「ひらがなに変えるんですね」
物部「ああ、親しみやすく分かりやすく」
そこへ、佐代里がお茶の差し入れにやって来て、
佐代里「あらあら、本気で始めちゃったのね」
物部「決まってるだろう、本気だ」
佐代里「仕方ないわね、そんな夫を選んだ私にも責任があります。手伝わせてもらいますからね」
物部「(頷き)これで選挙戦の最少人数、三人が早くも揃ったって訳だ」
須和「なんか、本当にやれそうな気がしてきますね」
物部「何を今更……やるんだよ。しかしまだ心許ない。あと一人ぐらい幹部をリクルートしたいものだが……」
佐代里「こんな夢みたいな船に、自分の仕事を投げ出してでも乗り込んでくれる人……」
物部「私らの知り合いにはいそうにないな」
須和「僕、知ってますよ一人、そんな人」
物部・佐代里「え?」
○走る車・内
運転する物部。助手席で分厚い本(地方自治法に関する)に書き込みながら読んでいる須和。
物部「須和くん、それでその『よっちゃん』という侍の居場所、本当にわからないのか」
須和「わかりませんよ。派遣であちこちの建設現場で働いてるってことしか……」
物部「本当に君たちときたら――」
須和「すみません。この『制限的列挙』って何ですか」
物部「ん? ああ、議会は自治法に規定されていること以外は勝手に議決事項にはできないってことだ」
須和「なるほど、やっぱり市長の権限の方が包括的なんですね」
物部「(須和に目を見張る)」
須和「何ですか、前見て運転してください」
物部「やけに呑み込みが早いじゃないか」
須和「図書館通いのおかげですよ、きっと。それに昨日は、徹夜で勉強しました。けどまだまだ物部さんの足元にも及びません」
物部「言ってくれるな。蛇の道は蛇、仏の沙汰は僧が知る、だ。地道に行くか」
須和「ですね」
○捜索のモンタージュ
様々な建設現場や作業所で「よっちゃん」について訊き込みをする物部と須和。ついでに物部は簡易チラシを渡し、須和はぎこちない握手とお辞儀をしていく。
物部が車を運転し、須和が助手席で勉強し、そしてまた建設現場で訊き込みと挨拶――
○高架下
電車が過ぎ去る音――
落書きの壁の前で、田丸と中前が身を寄せ合い、うずくまっている。
そこに、スーツ姿の物部と須和が駆けて来る。
須和「あ、やっぱり、あの時の」
物部「知り合いなのか?」
須和「ええ、よっちゃんさんに紹介して頂いた方たちで――」
中前「(睨み)あぁん?」
田丸「何の用だおめぇら」
須和「いや、あの須和ぎんぺいです」
田丸「ギンペイ……って、おめぇ、ギンか、どこ行って――」
中前「(遮り)やめぇタマ。すっかりお屋敷の飼い犬になっちまってら。ほれ見ろ」
と、物部の胸の議員バッジを見やる。
田丸「ギン、おめぇ……」
物部「まだ告示前なので表明はできませんが(チラシを差出し)須和くんも直に政治に携わるつもりでいます」
中前「おれたちゃ選挙権もねぇんだ(チラシを叩き捨て)バカにすんな!」
物部「……」
須和「住民票を取得して、三ヶ月経てば、選挙権は誰でも持つことができます」
中前「あぁ?」
須和「住民票があれば国民保険にも入れます。市の職員がきっと相談に乗ってくれます。まだ人生、やり直すことができるんです」
田丸「ギンおめぇ……変わったな」
須和「(首を振り)未だにビクビクしてます。恐いです。いきなり市長なんて……でも、決めたから。立ち上がるって」
中前「おい」
須和「?」
中前、突然須和を殴る。倒れる須和。
物部「須和くん!」
須和「(制し)はは、大丈夫です。大丈夫」
中前「みんな――スギもヤスもトッつぁんも、みんな、行方不明ンなったよ、生きてるかもわかんねぇ。何が政治屋だ、おめぇも同じクズヤローのくせに、バカが!」
立ち上がって、
須和「僕は、みんなが、すべての人が暮らしやすい成央市にしたいんです!」
中前「だからおめぇに何が――」
と、掴みかかる。
吉平の声「やめろよ!」
田丸「……よっちゃん」
吉平がつなぎ姿でスーパーの袋を持って現れる。
吉平「もういいだろ、ナカさん。ギンは自分の意志で闘おうとしてんだ」
中前、舌打ちし、手を放す。須和、足を震わせながら、必死で立っている。
吉平「そうだろ、ギン? それとも、そいつの操り人形か?」
須和「違う! 僕は、僕みたいなクズヤローでも変われるんだってこと、みんなの役に立てるんだってこと、証明したいんです!」
吉平「(笑って)いいじゃねぇか、そりゃ。ホームレスから政治家だなんて、大富豪でいや革命だぞ」
物部「貴方が、よっちゃん、さんですか?」
吉平「何だよそれ、オイラにゃ吉平克也っていう縁起のいい名前があんだ。ほれ、タマさん(と、田丸にスーパーの袋を渡す)」
田丸「お、おぅすまねぇ」
物部「吉平さん、たっての願いがございます」
吉平「うん?」
物部「革命を起こすには最低でもあと一人、同志が必要です」
吉平「ああ……なるほど」
中前「ちょっと待てよおめぇら、よっちゃんまで奪ってくつもりか?」
物部「そんなつもりでは――」
田丸「よっちゃん。手伝ってやんなよ」
吉平・中前「え?」
田丸「これ、見ろよほら」
と、落ちた簡易チラシを拾ってみせ、
田丸「須和ぎんぺい、まちへの恩返し、だとよ。恩返しの手伝いなら、よっちゃん、あんた打ってつけだよ」
吉平「……オイラさ、腹減って死にそうなったとき、ホームレスのおっちゃんたちに助けてもらったんだよな。だから――けっ、めんどくせぇ、おぅ、あんた」
物部「はい」
吉平「その手伝い、給料はもらえんだろうな」
物部「選挙運動員と労務者へは、報酬を渡すことができます。多くはないですが」
吉平「構わねぇよ、どうせ安月給だ。それにそっちの方が、夢がある!」
須和「……」
吉平「手伝わせてくれや、ギン」
と差し出した手を須和、両手で掴む。
須和「ありがとうございます!」
○成央市立中学校・体育館
ぱらぱらと拍手の鳴る中――
「無所属 須和ぎんぺい後援会発会式」の横断幕が横切る壇上に須和、立つ。
壇上下手側には、物部、佐代里、吉平が見守っている、
マイクのハウリングが響く。
須和「えー、皆様、ここは僕の母校です。最後の、人生でもっとも思い出深い母校です」
聴衆を見渡す。重労働者やホームレスらしき社会的弱者がごく少数。
須和「でもまさか、僕がこの壇上で話をすることになろうとは、十代の自分には、思いも寄らないことです。生きてて、よかった――大げさですが、今はそんな気持ちで胸がいっぱいです」
吉平「まだ早ぇよ、勝負はこれからだろ」
一同、笑い。
須和「そうですね、本日は後援会の発会式、いわば戦いを決起する日です。もう、これで本当に、後戻りはできません。僕はカネなしコネなし、学歴も資格もありません。無謀な戦いに挑もうとしていることは百も承知です。しかしそれゆえに、余計なしがらみも、守る地位も、市民を見下すプライドも、失うモノは何もありません。そして、社会的弱者の気持ちは痛いほどよくわかります。成央市のあちこちを実際に歩いて、見て、時には寝て(笑)このまちの素晴らしい所と、直した方がいい所、たくさん、たくさん見つけました。それで――」
聴き入る人々。
須和「僕は、このまちをもっと『人生のやり直しがしやすいまち』にしたいと思います。それが私、須和ぎんぺいの考えです――」
○成央駅・前(朝)
辻立ちで演説する須和。
須和「(緊張)えー、と、そういうことです」
ビラを配っている吉平が背中を叩き、
吉平「それで終わりか? え?」
須和「あ……いや」
吉平「たとえばどーすんだよ、たとえば」
須和「えー、たとえば、雇用や医療、福祉をもっと個人個人に合わせた柔軟な対応をとれるように配慮します。そのために、市の職員の役割分担、労働時間等の見直し、さらに生活保護や保険、年金などに関して、小さな町のお医者さんのように丁寧に診察してゆきます」
人々が無視して通りすぎていく。
吉平「よく言った。大病院の流れ作業みたいな政治はもう終わり! 皆さん、そう思いませんかー?」
須和「(微笑んで)その通り――」
○成央市立公民館・集会室
ミニ集会、前回より多様な人たちが野次馬的に増えている。板上で話す須和。
須和「国民総中流時代も大量生産大量消費時代ももう終わりました。いつまでもそんな古い体制でまちづくりをしようだなんて土台無理な話です。今は一人一人、こーんなに違う……」
と、板上から降りて一人一人の前で、
須和「酒屋のおじいちゃんはまだ若者に面倒見てもらうには早い」
酒屋、どんと胸を打つ。
須和「だけど妊娠中のお母さんは、再就職の不安に怯えることなく、もっとゆとりを持って働きたい……ですよね?」
妊婦、真剣に頷く。
須和「僕は、今の成央市がみんな安心して暮らせるまちだとは到底思えません。ルールや条例で縛られ、息苦しくて、大人は子供に決まったことしか教えず、子供たちはその枠を破ろうと非行に走る――僕も何度いたずらされたか分かりません。いたずらというより、もはや犯罪でしたけど(笑)」
笑いが起こる。
そこに一人の美女、満井悠美(24)が紛れていて――
須和「そんな僕も、こうして変われました! そちらの物部さんやまちの人たち、皆様のおかげです。残りの全人生を懸けて、僕はこのまちやひとに、恩返しをしてゆきます。僕はもう絶対にブレません、挫けません!」
一同、拍手。その輪に囲まれる須和。
悠美、そこからすっと抜け出す。
○藤浪大介選挙事務所・本部
「祈 必勝」と書を認めている藤浪。
スタッフ「藤浪市長、市長選まであと一ヶ月ですね。やはり何度やっても興奮するものですか?」
藤浪「そりゃあね。しかし、何が起こるか分からんからこそ、勝負事は楽しいのだよ」
スタッフ「さすが、深いですねぇ、藤浪市長」
そこへ、悠美がやって来る。
悠美「ただいま戻りました」
スタッフ「ああ、悠美さん。お疲れ様です」
藤浪「挨拶はいい。で、どうだった?」
悠美「予想以上かもしれませんね。大衆は、夢や希望に飢えていますから」
藤浪「夢や希望じゃ腹は充たされんよ。しかし確かに、一理ある」
悠美「どういたしましょう?」
藤浪「そうだな……鳴くのなら潰してしまえ蠅ごとき」
悠美「仰せのままに」
スタッフ「見事な一句です、市長!」
蠅のようにゴマをする。悠美、去る。
必勝の書を掲げ、ご満悦の藤浪。
○成央市立図書館・内
机に本を積み重ね、頭に鉢巻きをして勉学に励んでいる須和。
その隣に、悠美が歩み寄る。
悠美「(囁き)こんにちは、須和ぎんぺいさん」
須和「?(頭を下げる)」
悠美「私、こういう者です」
と、名刺(雑誌記者)を渡す。
須和「あ、記者の方……」
悠美「お勉強中、失礼なんですけど、是非インタビューを、と」
須和「インタビュー…?」
魅惑に微笑む悠美。
○ビジネスホテル・前の道
悠美に付き添われ歩く須和。
悠美「こちらです」
須和「え、ここ…?」
悠美「はい、静かに丁寧に対応するのが、わが誌のモットーですから」
と、須和に近寄る。
須和「(照れ)はは、同じですね、僕らと」
悠美「ええ、同じです」
と、須和の手を取る。
物陰から狙うカメラのレンズ。
驚いて身を引く須和。つまずく悠美。
悠美を抱き寄せる格好になった須和。
素早く切られるシャッター。
○写真のモンタージュ
須和を中心に物部と佐代里と吉平、朝の駅立ち、ビラ配り、握手などの政治活動、そしてリフレッシュ休暇(温泉など)――輝かしいスナップショットがシャッター音と共に積み重ねられて――
○物部家・外観(夜)
しんと静まり返った月夜。