【シナリオコンクール入賞作】華よりパン! 承Ⅰ

華よりパン!

○荒川べり

総務線の電車が走ってゆく。

堤防近くの地べたに腰を下ろしている未絵、名護、まどか、山野。

未絵「と、いうわけで、私、志藤未絵は『香田またね』という芸名で講談をやっていくことに決めました」

名護「は、またね?」

未絵「うん、たしかに、そう言われた」

名護「え、ギャグ?」

未絵「ううん、マジ」

山野「俺は、いいと思うよ。打ち上げドタキャンしなきゃ」

未絵「ごめん、もうしない、ドタキャン」

まどか「って私は、全然納得できないんですけど」

未絵「べつにぜんぶ納得してもらえなくてもいいよ。でも、私はやるって決めたから、講談」

まどか「そんな勝手に……私たちは未絵さんを信じてついていってるんですよ?」

未絵「だったら、これからも私を信じてついてきてほしい」

まどか「そんな……ちょっと由基人くんからも何か言ってよ」

名護「んと……何ていうか、ききにくいことだけど」

未絵「うん」

名護「コウダンって何?」

未絵「あ……それは」

山野「バカだなお前、アレだろ? 無声映画に合わせてセリフ言ったりするやつだろ? 演劇人がそんなんも知らんでどうする?」

未絵「ちがうよ」

山野「あ?」

未絵「それ、活弁士」

名護・まどか「……」

山野「だったら……何だよ」

未絵「高座でセンス一本、たった一人で色んな話をお客さんに伝えるの。メリハリつけて、面白くね」

名護「それって、落語?」

未絵「みたいなものだと思う。私もまだそんなに知らないけど」

名護「へぇー」

山野「なるほどねぇ」

まどか「……(納得できない)」

未絵「うん……」

遠くで電車が過ぎてゆく。

名護「でさ、肝心なハナシ、劇団マタタブローはどうすんの?」

未絵「もちろん」

と立ち上がって、

未絵「続けるよ、やめない」

まどか「続けられますかね、そんな二足のワラジ」

未絵「やるよ、頑張る。講談もね、芝居のためなの」

まどか「芝居の?」

未絵「うん、ほら、私のセリフの田舎なまり。あれだってきっと直ると思う。なにしろ講談って抑揚をこ~んなつけて喋るんだから」

名護「そんなら俺は」

と立ち上がって、

名護「これまで通り、未絵のことを信じるだけだ」

未絵「名護くん……」

名護「もう俺たち学生の頃からの腐れ縁だろ、しょーがねぇよ。な?(山野に)」

山野「お?(立ち上がり)おうよ」

名護「ほら何だっけ最初の目標」

山野「観客動員数千人突破!」

未絵「それから十年経って……」

名護「言うな、まだ夢の途中だろ」

未絵「うん、だから、さ。変革、てゆうか脱皮? うん、脱皮するために、やるの、講談」

まどか「んー、まどかは」

と立ち上がり、

まどか「みんなと違って、途中から入ったし、そんな手放しで未絵さんに賛同できません」

未絵「そっか」

まどか「でも。まどかだってまだアイドルもお嫁さんもあきらめられないし。未絵さん」

未絵「はい」

まどか「どうぞ、お好きに」

未絵「まどかちゃん……」

まどか「もう座長、時間がもったいない。早く稽古始めましょ」

未絵「(頷き)さあそれでは、いつかでっかいホールで演じる夢を見越して、向こう岸のお客さんまで声が届くように、まず発声から。行くよ」

一同「あー!」

 

○とんかつ屋「だるま」・店内(夜)

かつが油で揚げられている。

カウンター内、割烹着姿で接客をしている未絵。

未絵「いらっしゃいませー」

と客にお茶を置く。

客「いやぁ、探したよ、ここ」

未絵「え?」

客「元気な美人さんが働いてる美味い店があるって噂でさ、けどなかなか見つけらんなくて」

未絵「(照れて)それはもうホント……あっ」

客「(気づかず)いやぁよかった、それじゃ定番のカツ丼たのむよ」

未絵「あの、お客さん、ここ、どうやって見つけました?」

客「ああ、ネットだよインターネット」

未絵「なるほど、そうですよね。ありがとうございます。それで、ご注文は?」

客「……カツ丼」

未絵「(元気に)はいよ! すぐにお持ちいたします!」

 

○パソコン画面

「日本講談協会」のホームページ。

暗がりの中で未絵、パソコン画面の灯りに照らされ――

「School」をクリック。

場所は「お江戸上野広小路亭」地図、をクリック。

未絵、怪しげな笑みを浮かべる。

 

○お江戸上野広小路亭・外観

午後の賑わい。

交差点を挟んで「お江戸演芸スクール」等の垂れ幕がかかった若草色の建物が見える。

そちらへ未絵、横断歩道を渡ってゆく。

 

○同・2F・受付

法被を着た係員が受付に立っている。

係員「?(と顔を上げる)」

未絵が血気盛んにやって来る。

未絵「(近距離で)香田あかり先生のクラスを受講したいんです!」

係員「初めてでいらっしゃいますか」

未絵「あかり先生とはすでに面識がありますけれども! ええ、初めてと言えば初めてです」

係員「(苦笑)そうですか。一回四千円です」

未絵「え、四千円!?」

係員「六回で二万円というお得なチケットもございますが」

未絵「……(困り顔)」

係員「いかがいたしましょう?」

未絵、財布を出して、中身を探る。

未絵「言い訳は……しません。でも今四千円払えば、私は月末まで生きていくことができません……ほろろ」

係員「ほろろと言われましてもねぇ」

未絵「どうか後生ですから、人情を、人情を……」

と言いながら後ろに下がってゆき――

くるとふり返り、階段を駆け上がってゆく。

係員「ちょ、ちょっと」

カウンターから出て、追いかける。

 

○同・4F・教室

二列に並んだ机に、十数人の生徒が席に着いていて、上手最前席に生徒と向き合うように立ったあかりが資料に目を通している。

さらにその前には、小さな舞台セットがある。

あかり、視線を上げてその先にある時計を見やり、

あかり「それじゃあそろそろ……」

と、張扇を手にしたそのとき、

ドアを開け、飛び込んでくる未絵。

未絵「師匠!」

生徒たち、驚きの声を上げる。

あかり「またあんたかい!」

未絵「私まだ連絡先ももらってなくて、それでネットで探したらここが――」

と、係員に後ろから取り押さえられる。

係員「大人しくしなさい」

未絵「(抵抗)放してください、私はただ」

あかり「(張扇で手を叩き)はいはい、皆様皆様、落ち着いて」

未絵「(すがるように)師匠」

あかり「じゃない!」

生徒たち、ビクとする。

あかり「(笑顔をつくり)けれど、お知り合いではあります。なので、放してやっても大丈夫です」

未絵「(係員に)と、先生がおっしゃってますが?」

係員、手を放し、会釈して去ってゆく。

未絵、笑顔で前方の空いた席まで来て、座る。

一同「……(未絵に注目)」

未絵「あ、私のことはお気になさらず、どうぞ授業を始めてください」

あかり「あんた、どうせ授業料、払ってないんだろう?」

未絵「ここは出世払いで(拝む)」

あかり「仕方ないねぇもぅ。はい、それじゃあ初めましての方も突然、いらっしゃいましたのでね、簡単に自己紹介から(と未絵を見る)」

未絵「あ、はい。(立って)わ、私から――」

あかり「ここは噺家の教室。おもしろおかしくお願いしますね(いたずらな笑顔)」

未絵「(受けて立つという顔をして)えー、私、志に葛藤して未だ叶わぬ理想の絵を追い続けております、志藤未絵と申します。香田あかり先生を追っかけてここまでやって参りました。どうぞご指導のほど、よろしくお願いいたします。志藤、だけに」

生徒たちの顔を見回す。

生徒たち「……」

未絵「……ね」

あかりを見ると、これまたいたずらな笑顔。

未絵「(咳払い)というわけで、女三十三歳、どんな試練も受ける覚悟で講談の扉をパパンと威勢よく叩かせていただきました。あかり先生にはつい先日、香田またね、というありがたい芸名までつけていただき――」

あかり「はぁ?」

未絵「見事一番弟子として……師匠、何か?」

あかり「何だい、そりゃあ。あたしゃ知らないよ、あんたの芸名なんて」

未絵「またまたご冗談を」

あかり「恐ろしい小娘だよ、呆れてものも言えないね。『香田またね』だって! ああ、恐ろしいったらありゃしない」

未絵「めちゃくちゃもの言ってるじゃないですか」

生徒たち、どっと笑う。

あかり「……もうけっこう。次の方、どうぞ」

未絵、ふくれっ面で、着席する。

 

○荒川べり

名護、まどか、山野、土手に川の字に仰向けになっている。

名護「……で?」

まどか「(身を起こし)なに?」

名護「(身を起こし)次回公演、どうする?」

山野「やろーぜ、冬にやろう、クリスマス公演」

まどか「なんですかそれ、超てきとー」

山野「(身を起こし)こっちはいつでもマジだっつの」

名護「(笑って)クリスマス寂しいだけでしょ、ヤマノン」

山野「ヤマノン言うな」

名護「クリスマスはみんな、バイトに恋人に忙しいんだ、誰が三流芝居なんか見に来んだよ、却下」

山野「由基人お前な……仮にも俺は先輩だぞ」

名護「だから何だよ、ヤマノン」

山野「ヤマノン言うなて!」

まどか「(笑う)」

山野「だから、俺の意見も少しは尊重しろっつってんだよ」

名護「もう先輩も後輩もない。俺らの関係性なんざ、とうの昔に失くしちまってんだよ」

まどか「関係性、か……なーんとなく、ずるずる来ちゃってる感はあるよね、たしかに」

山野「でもまどかちゃん、ちゃんと俺には敬語使ってくれてるじゃん、いまだに」

まどか「それは距離を置きたいからです」

山野「え! 嘘!」

まどか「なんて、嘘ですよ」

山野「じゃあバイトも恋人も失くしちまった可哀想なこの俺と付き合ってくれたり?」

まどか「しないですね。百パーありえないですね」

山野「……俺、マッチでも売り歩くかな」

名護、笑う。

山野「由基人ぉ、お前なら買ってくれるよな、俺のマッチ」

名護「どうだか、未絵が欲しいってんなら、俺は買うけどね」

山野「チクショ―どこまで惚れてやがんだ、結婚しちまえよもう」

名護「向こうがそんな気全然ないから(苦笑)」

まどか「由基人くん……」

山野「そろそろはっきりさせる時期なんじゃねぇの、俺らみたいに」

まどか「ここは最初から百パーないけど」

山野「ま……お前らはあるよ、可能性! だから」

名護「うるせぇ、山野」

山野「呼び捨て!?」

名護「さっ(立ち上がって)、あれやこれやの話は置いといて。週に二日の貴重な稽古時間、有意義に使いましょ」

まどか「座長がいなくても?」

名護「うん……座長がいない分まで」

その笑顔は寂しそうで。

生徒一同で張扇を叩く音がして――

 

○お江戸上野広小路亭・4F・教室

生徒一同で『鉢の木』を講じている。

一同「――これより(叩)最明寺殿時頼と(叩)佐野源左エ門常世が(叩)晴れて主従の対面をいたします(叩)謡曲で有名な鉢の木のうち(叩)いざ鎌倉と源左エ門駆けつけの一席(叩)これを以て読み終わりといたします」

未絵「……おぉふ」

と顔を上気させ、その右手に握られた張扇(借り物)を見つめる。

あかり「まあ皆さんご存じのように、実際は張扇をそんなにパンパン連発しませんし、読みの速さも一定では味気ありません」

未絵「はい、わかりました師匠!」

あかり「ここでは先生、と呼んでくださいね志藤さん」

未絵「(張扇叩き)わかりました先生!」

あかり「あと、それ返しな」

未絵「ええー」

嫌がる未絵の手から張扇を取り上げ、

あかり「いつもならすぐ、皆さんに練習してきたものをお披露目していただくところ。ですが、今日は特別、ちょいとこのあたくしめにお時間頂けますでしょうか」

生徒たち、「よっ」「いいね」などと歓迎の声を上げる。

未絵、目を輝かせて拍手する。

あかり「それでは失礼して……」

赤布の張られた舞台に上がりつつ、

あかり「えー、現在では芸人の約半数が女性となった講談でありますが――」

釈台の前の位置に着いて、

あかり「そもそもそのはじめは、戦国大名の話し相手が語った物語でございます。それが滑稽話か、軍記物かの違いが、今の落語と講談の特徴づけでもあるわけです。現代風に申しますと、落語の発祥がフィクションなら、講談の発祥はドキュメンタリー、といったところでしょうか」

張扇を叩く。

あかり「そこで今回は、この不肖、香田あかりの身に実際に起こった事件を、修羅場を交えてお伝えさせていただきたく存じます」

一同、拍手。

あかり「真打になったばかりの遅咲き講談師、香田あかりの名演技がめずらしく、いえいえ毎度のことのように舞台上で華麗に炸裂しました頃は平成二十年、じめじめと蒸し暑い梅雨の午後、ところは皆様ご存じお江戸日本橋亭、香田あかりの楽屋の戸を(張扇叩く)何者かが叩く音。『おや、誰かしら?』と立ち上がってみると――」

 

○回想・お江戸日本橋亭・楽屋

楽屋の扉を開けて、入って来る少女。

あかりの声「(叩)そこに入ってきたるは、年の端二十も行かぬやつれた少女」

あかり「ちょっと何だい、勝手に」

少女「すいません……」

あかり、その少女の姿を見てはっ、と驚く。

あかりの声「その子は前髪をだらーんと垂らし、一見まるで四谷怪談、お岩さん。そう呼ぶのは憚られます、仮にその名を『うたこ』といたしましょう」

うたこ「あのぅ、私、しゃべれる歌手になりたくて……」

あかり「歌手――?」

うたこ「はい、あの私、幼い頃に両親に捨てられて、それで今は親戚のもとで暮らしているんですけど……」

あかりの声「なんせその子は歌い手として成功することを夢見ていたのでございます。そのために、どういう訳か、しゃべりを身につけたい、と申しまして――」

あかり「はぁ……そうかい。それで?」

うたこ「弟子に、してください」

あかり「(あんぐり)」

あかりの声「『この子はあたしが教育し直さなくちゃあいけない』――」

あかりは深く息をつき――

あかりの声「子ができずに別れた夫との心残りか、はたまたただの世話焼き根性か」

うたこに近づいて――

うたこ「?」

あかりの声「あかりはうたこを弟子に引き受けることといたしました(叩)」

うたこの手を強く握りしめる。

 

○回想・あかりの家

廊下を慣れぬ手つきで、雑巾がけしているうたこ。

あかりの声「梅雨も晴れて七月、イマドキ流行らぬ内弟子となったうたこと二人、ひとつ屋根の下、つつましやかな生活が始まりました。しかし――」

うたこ、足をぶつけ、バケツを倒してしまう。水が床に広がってゆく。

あかり「(何事かと飛び出して)こらあんた! 何度目だよ、同じ失敗をくり返すのを馬鹿ってんだよ!」

うたこ「すいません、でも私、こういうの苦手で……」

あかり「口より手を動かしな、誠意を見せるのが筋ってものだよ」

うたこ、下からあかりを睨み上げる。

あかり「(恐怖の裏返しで)何だいその目は!」

と、うたこの頭をはたいてしまう。

床に倒れるうたこ。

あかり「……(後悔)」

あかりの声「お互い、親知らず子知らず、距離間つかめず、うたことあかりの関係はみるみるうちに悪化していったのでございます(叩)」

無言で、床にこぼれた水を拭くうたこ。

 

○お江戸上野広小路亭・4F・教室

真剣に聞き入っている未絵。

小さな舞台上で語るあかり。

あかり「まず見習が覚えることは、高座の仕度や寄席の掃除、そして着物のたたみ方などの細かい作法。なかでも大変なのは、楽屋のお茶出しです」

 

○回想・お江戸上野広小路亭・2F・楽屋

紋付姿の講談師が三人、鏡の前に並んでいる。

あかりの声「これがどうして芸の世界は縦社会、格の高い人からお茶を出すのが当たり前」

うたこがお茶を恐る恐る運んでくる。

うたこ「あ、あの、お茶……」

運ばれた芸人が厳しく向こう(格上芸人の方)に目配せをする。

あかりの声「ですが不器用で覚えの悪い新米、うたこでございます」

うたこ、格上芸人にお茶を出す。

格上芸人「(飲んで)熱っ、おれはぬるめがいい。前にも言ったね」

うたこ「すいません……」

あかりがそそくさ近寄って、

あかり「本当、申し訳ありません。出来の悪い弟子で」

格上芸人「しつけ、びしっと頼むよびしっと」

あかり「ええ、それはもう重々……」

と、うたこの頭を下げさせる。

うたこ「……」

幽霊のようにお茶を配っていき――

あかりの声「もはや何をやらしても上手くいきません。前座として舞台に上がるまでもなく、再三の叱咤激励、意外な刻苦勉励。そして――」

あかりの前に来たうたこ、お茶を着物にぶっかける。

あかり「っ!?」

うたこ、走って逃げてゆく。

芸人たち、どよどよとして、

格上芸人「何してる、はよ追っかけんか!」

あかり「は……はい!」

走って追っかけてゆく。

 

○回想・お江戸上野広小路亭・3F・演芸場

座敷に座る観客たちを蹴散らすように、高座に駆けあがってくるうたこ。

うたこ「あの、私、歌手を目指してまして、どうか歌を、私の歌をきいてください」

あかりの声「不意に修羅場は訪れます」

ざわめく観客。気にせず、歌い始めるうたこ(演歌のようなバラード)。

あかり「(駆けつけて)何やってんだ、馬鹿!」

高座前から腕を伸ばし、うたこを引き摺り下ろそうとするが、

うたこ「放せ! 私はあんたの奴隷じゃない! 私は歌手になって金を稼ぐんだ!」

あかり「だったらあんたの来る場所はここじゃない! 下りなさい!」

あかりの声「放せ、下りろ、放せ、下りろ、と舞台の上と下で弟子と師匠の醜い綱引き、お客も一緒になってやれいいぞと囃したてる始末(叩)ええい、とあかりがその全身をかけ、ようやくうたこを畳に引き摺り下ろすと、どてーん!」

うたこ、畳の上にうつ伏せに倒れる。

あかりも尻もちをついている。

あかり「(荒い息)……あんた、一体どうしてこんな……」

うたこ「(嗚咽しながら)私には、もうどっこも行くとこなんて、なかった……」

あかり「うたこ……」

うたこ「でも、ここにも、私の、居場所なんて、ない……私はただ、歌を、みんなに、きいてほしいだけ、なのに……うぅぅ」

あかり「ごめん、ごめんよあたしは、そんなつもりであんたを……(手を伸ばす)」

うたこ「(その手を払いのけ)さわんな! どうせあんたも私のこと、ばかにしてたくせに! 親ヅラしてんじゃねぇよ!」

そして、駆け出してゆく。

あかり「……(絶句)」

あかりの声「噺家でありながら、言葉が全く出てこない――」

 

○お江戸上野広小路亭・4F・教室

小さな舞台上で語るあかり。

あかり「香田あかり、それまで艱難辛苦多々あれど、その時ほどの衝撃は、後にも先にもございません。親の心子知らず。『恐ろし弟子うたこ』の一席、これにて読み終わりといたします」

礼をする。

生徒一同、拍手。

未絵「……(唖然としている)」

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